逍遥の詩・春夏

天龍寺の庭園
天龍寺の庭園

◇志賀高原避暑

◇南港野鳥園

◇芥川看螢火

◇歩六甲新緑

◇倉敷美観地区

 

◇待櫻花

◇上故山

◇春暖逍遥

◇摂津峡春来

◇流蛍



志賀高原避暑

志賀高原は、長野県下高井郡山ノ内町にある上信越高原国立公園の中心部を占める高原です。高原には一の瀬高山湿原が広がっており、せせらぎ遊歩道を通って湿原巡りをすることができます。この遊歩道は、高天ケ原湿原を源とする小雑魚川沿いに、上の湿原、中の湿原、下の湿原、ダイヤモンド湿原をつないでいます。それぞれの湿原には、多種類の湿生植物が繁茂しています。

8月初めのバスツアーの初日に志賀高原を宿泊し、翌日は戸隠に行きました。この辺りはスキー場のメッカですが、夏なのでもちろんスキー客はいませんでした。

 


避暑登来信越峰 (しょ)()(のぼ)()たる 信越(しんえつ)(みね)

晴嵐紫翠碧山雄 晴嵐(せいらん) ()(すい) 碧山(へきざん)(ゆう)なり

白雲片片如波浪 白雲(はくうん)(へん)波浪(はろう)(ごと)

尽日優遊万里風 尽日(じんじつ)優遊(ゆうゆう) 万里(ばんり)(かぜ)

平成二十九年八月  光琇



南港野鳥園

風光満渚麦秋時 風光(ふうこう)(なぎさ)()麦秋(ばくしゅう)(とき)

簇簇園林野水涯 (そう)々たる(えん)(りん) 野水(やすい)(ほとり)

格格游禽鳴緑樹 (かく)々として 游禽(ゆうきん)緑樹(りょくじゅ)()

悠然白鷺泛漣 悠然(ゆうぜん)として 白鷺(はくろ)(れんい)(うか)

(註一) 麦秋=麦の熟するころ(六月初)  

(註二) 簇簇=むらがっているさま

(註三) 格格=鳥の鳴く声の形容

(註四) =青いさざなみ

平成二十九年六月  光琇


 

大阪南港野鳥園は、港湾関係事業の一環として、主に大阪湾岸一帯に生息する水鳥を中心とした野鳥の保護を目的として、1983年に開園しました。もともとこの地区は渡り鳥の生息地であったため、港湾事業に伴うミティゲーション(事業に伴う自然破壊の緩和・再生)として整備されたようです。施設面積は19.3haで、そのうち湿地部は12.8ha、緑地部は6.5haです。展望塔からは、明石海峡に沈む夕景を望めます。

 鳥の撮影のために、300mmの望遠レンズを購入して友人と3人で出かけましたが、展望塔からはなかなか野鳥に出会えませんでした。そこで、北観測所に移動したところ、森に群がるムクドリを発見しました。ムクドリは動きが早く、また望遠レンズを使いなれていないため、カメラにおさめるのが大変でした。しかし終わってみると、私だけが木の枝にとまっている食事中のところを撮れていました。


芥川看螢火ー芥川に螢火を看るー

高槻市を流れる芥川の下流で市がホタルの養殖を行っており、6月の初めごろからホタルが飛び交います。ホタルの成虫は夜露だけで生き延び、1週間ぐらいで短い命を終えます。

芥川は自宅から近いので、毎日のように撮影に出かけました。飛び交う時間帯は、夜の8-9時、11時前後、夜中の2時前後ですが、あまり遅くにうろうろすると危険なので、8-9時に撮影しました。しかし、ホタルに焦点が合わずに光の線が太すぎたり、背景が暗すぎたりして、結局うまく撮影できませんでした。今年の反省を踏まえて来年再度挑戦しようと思っています。

渓水潺潺一径微 渓水(けいすい)潺潺(せんせん)として 一径(いっけい)(かす)かに

無人腐草岸霏霏 (ひと)()()(そう)(きし)霏霏(ひひ)たり

忽浮螢火往来影 (たちま)()かぶ (けい)()往来(おうらい)(かげ)

明滅両三江上飛 明滅(めいめつ)両三(りょうさん)江上(こうじょう)()

(註一) 潺潺=水がさらさらと流れるさま

(註二) 腐草=礼記の月冷篇に「季夏の月、腐草螢と為る」

     とあるのをふまえる

(註三) 霏霏=草などが入り乱れて茂るさま

               平成二十九年六月  光琇



歩六甲新緑ー六甲の新緑に歩すー

物外青山風葉声 物外(ぶつがい)青山(せいざん) (ふう)(よう)(こえ)

渓流滾滾水煙清 渓流(けいりゅう)(こん)々として 水煙(すいえん)(きよ)

忽聞鶯語閑林路 (たちま)()鶯語(おうご) (かん)(りん)(みち)

嫩色万枝漫歩軽 (どん)(しょく)(ばん)() 漫歩(まんぽ)(かる)

(註一) 物外=俗世間の外

(註二) 嫩色=草木のわかわかしい色

平成二十九年五月  光琇

5月の中旬に神戸市の森林植物園に行き、新緑の中を歩き回って写真もいっぱい撮りましたが、いい写真を撮ることができませんでした。森林植物園へは、三宮から市バスで30分曲がりくねった山道を北上し、帰りは無料送迎バスで北鈴蘭台まで行って神戸電鉄を利用しました。

森林植物園は、「六甲の山なみと自然を背景に、端正な樹形をした針葉樹を林として植栽し、四季を彩る落葉樹や花木をそえる」という構想の下に、昭和15年に創設されました。六甲山地の西部に位置し、日本の代表的な樹木や世界各地の樹木が原産地別に植えられています。園内には、カキツバタやスイレンの咲き誇る長谷池や野鳥園もあります。総面積は142.6haです。



倉敷美観地区

 かつての倉敷は、江戸幕府の天領であり物資の集積地として栄えました。当時の物資輸送の主役は舟運であり、そのインフラとなったのが倉敷川です。川沿いには柳が植えられ、その外側には白壁の屋敷が並んでいます。現在、この地区一帯は倉敷美観地区に指定され、大原美術館、倉敷考古館、倉敷民藝館、倉敷アイビースクエアなどが立地しています。

 バスツアーでここを訪れたのは2月だったので、まだ柳が芽吹いていませんでした。しかしそれでは絵にならないので、芽吹いているという想定で作詞しました。倉敷川では、写真のハクチョウ(詩では鴻鵠)が人を恐れることなく悠々と近づいてきたので、すかさずシャッターを切りました。

 

尋来碧水巡城処 (たず)(きた)(へき)(すい)(しろ)(めぐ)(ところ)

楊柳青青白壁奇 (よう)(りゅう)青青(せいせい) 白壁(はくへき)()なり

鴻鵠漫遊春似画 鴻鵠(こうこく)漫遊(まんゆう)(はる) ()()たり

江清斜景遍漣 (こう)(きよ)斜景(しゃけい) (れんい)(あまね)

(註一) 斜景=夕日

(註二) 漪=さざなみ

平成二十九年三月  光琇



待櫻花ー桜花を待つー

 3月になると、桜の開花時期が気になります。また、桜は咲くとすぐに散ってしまうので、咲いたら咲いたで今度はいつ散るかが気になり始めます。古今和歌集で在原業平が「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」と詠んでいるように、桜が気になる日本人の心は今も昔も変わらないようです。3月半ばになって急に暖かくなりました。今年は例年より早く桜が春を連れてやってきそうなので、月末には仲間と近所の摂津峡桜公園で花見酒という話になっています。

 漢詩では梅や桃を詠ったものは多いですが、桜(中国語では桜花)はあまり見かけません。また桜を含む詩語もほとんどありませんが、日本の古典では花と言えば桜をさします。あのパッと咲いてパッと散る桜は日本人の心を象徴しています。

驟暖江城草色匀 (しゅう)(だん) (こう)(じょう)草色(そうしょく)(ととの)

鶯聲聴處一枝春 鴬聲(おうせい)(きこ)ゆる(ところ) 一枝(いっし)の春

東風吹洽櫻花早 東風(とうふう)()いて(あまね)桜花(おうか)(はや)

預備壺觴迎客人 (あらかじ)壺觴(こしょう)(そな)客人(きゃくじん)(むか)えん

(註) 壺觴=酒壺と杯

                   平成二十八年三月 光琇



上故山ー故山に上るー

行尋郷里到山巓 ()きて郷里(きょうり)(たず)山巓(さんてん)(いた)

如黛雲峰五月天 (まゆずみ)(ごと)(うん)(ぽう) 五月(ごがつ)(てん)

俯瞰紫藤連壑處 俯瞰(ふかん)紫藤(しとう)(たに)(つら)なる(ところ)

鶯声滿耳遶溪煙 鴬声(おうせい)(みみ)()(けい)(えん)(めぐ)

 (註一)故山=故郷の山

 (註二) 山巓=山のいただき

  

 平成二十七年七月  光琇

国道308号は、大阪府東大阪市から奈良県生駒市に抜ける国道で、道路地図にも載っています。しかし、その国道を自動車で峠越えしようなどと考えてはいけません。国道は生駒山頂の少し南側の暗峠(くらがりとうげ)を東西に越えるのですが、峠付近は何と石畳で自動車1台が軒下をかすめてやっと通れる程度の幅員です。また、東大阪市側は急勾配(最急勾配は30%100m進んで30m上る)のヘアピン・カーブが続き、登り切れないで立ち往生する車もあります。国道308号は、知る人ぞ知る名物「酷道」なのです。

 私は生駒市生まれで、生駒山頂には何度も登りましたが、暗峠には行ったことがなかったので、5月の初めに生駒市側から国道を歩いて上り、東大阪市側に下りました。上りは谷間に拡がる段々畑や藤の花を見る余裕がありましたが、下りは急勾配をころばないようにするので精一杯でした。



春暖逍遥

 5月ともなると水も温んでくるので、川べりを歩きたくなります。雨上がりで柳の緑も鮮やかになるなど、ただ歩いているだけでもいろんな発見があり、動植物たちも春を待ち望んでいたことがわかります。

 この詩を作ってから見直したところ、起句(第一句)と承句(第二句)が何となく王維の「元二の安西に使いするを送る」のそれと似ているのに気づきました。王維の詩の起句と承句は、「渭城朝雨潤軽塵(渭城の朝雨軽塵を潤し)、客舎青青柳色新(客舎青青柳色新たなり)」となっています。先生に、盗作っぽくなってしまったと言ったところ、「他の詩から詩語をいただくことは全く問題ない」という返事だったので、モヤモヤが晴れました。

夜来細雨洗軽塵 夜来(やらい)(さい)() 軽塵(けいじん)(あら)

泛水揺揺柳色新 (みず)(うか)びて(よう)(りゅう)(しょく)(あらた)なり

日暖江頭多韻致 ()(あたた)かく 江頭(こうとう)韻致(いんち)(おお)

韶華満眼艶陽春 (しょう)()満眼(まんがん) (えん)(よう)(はる)

(註一)韻致=風雅なおもむき 

(註二)韶華=春の明るい景色、日ざし

(註三)艶陽=花の咲くはなやかな晩春の時節

                 平成二十六年五月  光琇



摂津峡春来ー摂津峡春来るー

 摂津峡は大阪府高槻市の芥川上流に広がる渓谷です。北摂随一の景勝地とされ、約4kmにわたって、奇岩、断崖、滝などが続いており、渓流に沿ってハイキング・コースが整備されています。芥川は上流部に市街地がないため常に碧水(青緑の澄んだ水)を湛えています。また瀬と淵が変化に富んでいることから川魚の種類も多く、近くの「アクアビア」で川魚をはじめ生き物たちの生態を知ることができます。また摂津峡は桜や紅葉の名所としても広く知られており、まさに自然美の宝庫といえます。

 渓谷の下流地点には桜公園があり、その名の通り春になると一面に桜が咲き誇り、花見客で賑わいます。公園にはステージや子供たちの遊具も設置されているので、幅広い年代の人たちに人気があります。

靜境逍遥岸頭 静境(せいきょう)(しょう)(よう) ()(がん)(ほとり)

滔滔碧水抱岩流 (とう)々たる(へき)(すい) (いわ)(いだ)きて(なが)

櫻花滿眼庵山脚 (おう)()満眼(まんがん) (さん)(きゃく)(おお)

携友陶然勝景遊 (とも)(たずさ)え 陶然(とうぜん)として(しょう)(けい)(あそ)

(註一) 敧岸=切り立った岸 

(註二) 陶然=酒などに酔って気持ちの良いさま

                   平成二十六年三月  光琇



流 蛍

大阪府高槻市の芥川は、上流に市街地がないため、四季を通じて清流を湛えています。芥川には摂津峡という桜の名所があり、その近くのビオトープで高槻市がホタルの保護を行っています。ホタルたちは、夏の夜に恋の炎を燃やして短い命を終えます。昔はどこにでもいたホタルですが、今は特別なことをしないとその棲息環境を維持できません。彼らが思う存分恋の炎を燃やせるよう、私たちは環境保護に努める必要があります。

ビオトープは自宅から歩いて行ける距離にあるので、毎年6月には孫を連れて、蛍たちの神秘的な世界で非日常的な雰囲気に浸っています。私が子供の時、ビンの首にひもをつけて蛍狩りに出かけるのを待ちわびてはしゃいでいたら、転んでビンが割れ手のひらを切りました。今も残っている傷跡を見ると、子供の頃の自分と孫とが二重写しになります。

蒼天欲暮轉寥寥 (そう)(てん)()れんと(ほっ)(うたた)(りょう)(りょう)

雨後蘆汀妙舞妖 ()()()(てい) (みょう)()(なまめか)

何為隨風燃薄命 (なん)すれぞ (かぜ)(したが)(はく)(めい)()やすや

誰知月下戀情焦 (たれ)()らん (げっ)()(れん)(じょう)(こが)るる

         を

  (註一) 寥寥=うつろでひっそりしているさま 

 (註二) 蘆汀=あしのはえているみぎわ 

(註三) 何為=どうして、なぜ  

    平成二十四年六月  光琇